彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
私が座っているのは主任から一番遠い席。だけどその様子はよく見える。
見ていたら辛いけど、少しでも覚えていたいという相反する思いの結果のこの場所。
こちらから見えるということは、向こうからも見えるということ。

主任と話をするために順番待ちをしていた人たちもやっといなくなり、それを見ていた望亜奈さんは腰を上げる。


「じゃ、ちょっと挨拶してくるね」

「はーい。ごゆっくり」


ごゆっくりって言うのもおかしいけど。
なんて言葉が正しいのかもわかんない。


私はまた手元の梅酒に口をつける。
あ、もうなくなっちゃったのか。
近くにきた店員さんに同じものを注文してまたそれを飲み進めていく。

梅酒がこうして飲めるようになったのも主任と一緒にご飯に行ってから。
素敵なレストランでおいしい食事。

――想い出の時間

朔也さんのレストランは文句なしでおいしい。
だけど、それは一緒にいたのが主任だったから。
誰と食べるかでその味わいは違ってくるってわかったから。

あぁダメだ。

何も見ても結局最後は主任との思い出ばかりにたどり着いてしまう。
ここ最近のことなのに、こんなにも沢山……


泣きそうになって慌てて上を向く。

ここで泣いちゃダメ。

こんな顔誰にも見られたくなくて、そのままトイレに逃げ込んだ。
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