彼と恋のレベル上げ(10/6おまけ追加)
あるとき仕事が遅くなり、手伝ってもらった彼女をつれてご飯を食べに行った。

いつも車で来ている彼女は俺を送って行くから酒を飲んだらどうかと言う。
いくら彼女が酒が苦手だからといっても自分だけ飲むわけにはいかない。
一度は断ったが、何度も勧めてくる彼女に根負けして一杯だけとビールを注文した。

今日もくるくると変わる表情にあきもせずに眺めていると、急に目の前のサラダをとりわけてそーっと俺の前におしてくる。
ビールだけ飲まないで食べろということだろうか。

「おいしいものを食べると幸せな気持ちになる」
そういう彼女を見ているだけでこちらまで暖かい気持ちになった。

もうこの気持ちの名前はわかっていた。
でもこのまま、部下のままで……

食事を終えると彼女の車で家まで送ってもらった。
今まで一緒に行動してきて彼女の方向音痴は経験済み。
彼女の家までの道のりを教えたとはいえ、ちゃんとたどり着いただろうか?


『無事に着きましたか?』

会社の携帯から彼女に短いメールを入れると、そのまま返事を待つ。

もうとっくに着いているはず。
十分経っても、三十分経っても返事はなかった。

彼女の性格上、返事をしないということはあり得ない。
なんかあったのか?

お酒を飲んだわけでもないから酔って寝たということはない。
他の可能性は?

いつ来るかわからないメールを待つ。
そのまま待つなんてことはできなくてゲームにログインした。
ちょうどギルマスがログインしていて挨拶だけするととりあえず気を紛らわせるために狩りを始めた。

結局一晩中狩り続け、朝。
無駄にレベルがあがった俺。
なにやってんだか……

冷静になりたくて「シャワーを浴びる」とだけ告げて席を立った。
すっきりして戻ってきてもう一度メールを確認する。
誰からのメールもない。

ため息をつき携帯を置こうとした瞬間、メールを受信した。

無事に着いていたがメールに気づいたのが遅い時間だったと。
着いてたならいいんだ。


『無事についてよかったです』


それだけ送ると携帯をテーブルの上に置いた。


この頃から俺はどんどん彼女を見守るだけでは足らなくなっていた。
< 388 / 439 >

この作品をシェア

pagetop