幻影だとしても、
貴方がいなくなった部屋はとても広く感じるから嫌いだ。


真っ暗な部屋に唯一差し込む月光のように、
私の真っ暗な心に差し込んだ一筋の光。それが彼だった。


1人路地に捨てられた私を愛してくれた。
こんな素敵な部屋まで用意してくれて、
家具も私の好きなアンティーク調で揃えてくれた。

それだけで十分なはずなのに。



「人間は驚くほどに貪欲、か」



愛を知れば知るほどに
もっと愛してもっと傍にいて、もっと、もっと…

そんな風に思ってしまう自分がいた。


あの人は私が望めば愛を与えてくれる。
_____そう、“私が望めば”。

あの人が私に望むことはない。
私に望まなくても、愛してくれる家族がいるから。
愛してくれる妻がいるから。



「…っ」



ぽたり、と涙が一つシーツにシミを作った。


こんなにも辛くて切ない関係、
これ以上続けたって仕方が無い。

そんなこと、わかっている。
それでも無条件に愛してくれる彼を手放したくない。
そう思ってしまう自分がいるのだ。
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