今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
「あなたは飲める血を探していて、それが私だったと、そういうことでいいんですよね」

 カディスが頷く。

「私も、少し考えを改めました。あなたが必要としている血を分けてあげることが私の仕事。そしてその見返りとしてここに住まわせてもらえるということなら、おかしくないと思います」

「いや……しかし」

 カディスが言い淀む。あれだけこちらに言ったり触ったりおいて、どうして今更そんな反応をするのか。

「また、あんなことになったら……」

「ああもう面倒臭い! そうならないために私を雇うって話じゃないんですか!?」

 こちらは脱走までしかけて心を決めたのに、その煮え切らない態度は何なのか。
 睨みつけるとカディスが慌てたように立ち上がった。

「あ、ああそうだ。お前がそれでいいのならそうしよう。そういうことなら、会わせたい者がいる」

 こんこん、とノックの音。

「タイミングがいいな。入っていいぞ」

 カディスの声の後、扉が開く。現れたのは金髪碧眼の見覚えのある姿の男。
 アリーナは思わず口をポカンと開けた。

「セルジュ・オーリスと申します」

「あなたは……」

「『初めまして』、アリーナ様。陛下からお話は少し伺っています」

 セルジュと名乗った男はアリーナに片目を瞑ってみせる。恐らく黙っておけというアイコンタクトだろう。
 昨夜のことはアリーナとしても記憶から抹消したいので、掘り返されなくて済んだので助かった。

 明るいところだと、昨日はわからなかったものもよく見える。
 低い位置で結えられた長髪に特徴的な片眼鏡。絶対に見たことがある。アリーナは目を閉じて記憶を辿る。

「セルジュさん……王族の方ではありませんか。あなたを新聞で見たことがあります」

 買うほど裕福ではないので捨てられていたのを拾って見たのだというのは、言う必要のないことだろう。

「おや、端に小さく映っていただけだと思いますが、よく見ていらっしゃいますね。では、正式に名乗りましょう。
私は『旧』レガッタ王国『元』第11王子セルジュ・オーリス。それが私です」

「王族は皆殺しにされたっていう話じゃ……」

「第11王子なんて、もう王族の誇りなんて何もありませんから。臆面もなく命乞いをしたんです。ご心配なさらずとも私以外は本当に死んでますよ」

 セルジュは平然と宣って肩を竦めた。
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