今宵、皇帝陛下と甘く溺れる
「適切な処置をすれば死なずに済むでしょう。そのまま死にたいか自分で選ばせてあげます」

「ひ、とりに……でき、ない……ありー、な」

 アリーナ。
 先程一緒にいたもう一人の子供のことだろうか。

 ──丁度いい。

「力が無ければ彼女は守れません。あなたにはその力がある。あとはそれをふるう冷徹ささえあれば」

「……どう、すれば、いい?」

「彼女を苦しめたこの国をつくり直すのです。そして、ゆくゆくはこの世界をも。そのくらいしなくては、大切な人は守れない」

「……」

 少年は黙り込んだ。

「そんなこと、おれに……できる?」

「できます。幼い今は無理でも、あと数年経ちさえすればあなたは誰よりも強くなる。それまでは私が手伝います。うまく私を使いなさい。……彼女を傷つけたものが憎いでしょう?」

「……にくい……」

 長く躊躇ったようだったが、ゆっくりと首肯する。その微かに開いた瞳がぎらりと光ったことに、少年には気づかれないようにほくそ笑んだ。

 気概は十分。動機も、好きな娘のために動くとなればおそらくは十分すぎるほどだ。

「共に、全てを壊しましょう」

 彼女を──あの人を苦しめたこの国を。世界の仕組みを。

 少年には悪いが、利用させてもらおう。
 彼女が化け物だというのなら、自分は悪魔だろうと、何であろうと構わない。

「アリーナ……」

 黒く澱んだ天蓋を見つめ、歳に似合わない憂いを帯びて少年は囁く。その顔があの男の名を呼ぶ彼女と酷く似ていて、腹が立った。

 この少年は彼女の子であると共に、あの男の子なのだ。憤りを感じこそすれ、愛おしさは感じない。

 歪んでいるとは自覚していた。それでも、何もかもを恨まずにはいられなかった。



 事が順調に進んで、少年がアリーナという少女と無事に再び出会えたなら、その時は少しばかり想いを通じ合わせる手助けをしてやろう。

 彼女の最後の願いだ。どうせこんな化け物と知れば少女も去っていくに違いないが、もし、それでも互いに手を離さなかったなら。

 少年と少女が、ずっと互いを想い合うような2人だったとしたら。
 
 多少は心を動かされるかもしれないと、そう思った。
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