ケーキ屋の彼

「秋斗といえば、……秋斗ってそういう方面の話しないから誰が好きとか分からないなあ」


柑菜は、隣にいる亜紀をちらっと見た。


ーーやっぱり、亜紀しか知らないのね……。


「だから……困るんだよね」


美鈴はつい、そう口を滑らせてしまった。


しかし、そのことにまだ気づいていないようで、隙間から見える空に輝く星を見ている。


もちろんその声は、柑菜の耳にも櫻子の耳にも入っている。


「もしかして、美鈴さんって……」


柑菜の中で、一方的だった秋斗の思いがつながる瞬間だった。


「あ……もしかして声に出てた?」


柑菜の恋心を知っているから、美鈴は自分の気持ちは絶対に柑菜には言わないでおこうと決めていた。


なのに、この温泉があまりにも心地よくて……。


「とは言っても、もう長すぎる片思いだから、そろそろ諦めるつもりよ」


柑菜の不安な気持ちを取り除こうと、美鈴は明るい口調で話す。
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