ケーキ屋の彼

「初めまして、私は秋斗の……元彼女の相馬真莉です」


そう言う真莉は、どこか自信あり気な態度で柑菜を見る。


「土橋柑菜です」


柑菜はその真莉とは正反対で、どこかその背中は小さく見えた。


ーーほら、想像した通り……。


「ねえ秋斗、もう一度フランスで修行する気はない?」


「え?」


「私、おととい日本に来たんだけど、実はあなたのケーキ食べたの。もったいないわ、あんなに美味しいものを作れるのに」


2人は、柑菜の知らない話を展開させていく。


それは、柑菜にとてつもない疎外感を与えた。


「でも、……逃げたのは自分だ」


「だからこそ、もう一度、次こそは頑張ってほしい。ね、考えてみて」


それを言うと、真莉は自分のブースに帰っていった。


きっと、なによりそれを1番に秋斗に伝えたかったのだろう。


「ごめんね、なんだか関係のない話をして」


柑菜のほうに振り向いた秋斗は、申し訳なさそうに眉を下げていた。


「いえ……彼女、だったんですね」


「うん、フランスにいた頃に付き合ってたんだ」


どうして別れたんですか、好きになったのは秋斗さんからですか、たくさんの質問が柑菜のなかに浮かんだけれど、柑菜はそれを1つも秋斗に言うことはなかった。
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