ケーキ屋の彼
そこにいたのは、柑菜と同い年くらいに見える男の人。
その人は柑菜の顔を見ると、はっとした表情を一瞬見せて、また元通りになる。
「あ、私退きますね」
「いや……いいんです…………あの、実は僕ここのケーキ屋来るの初めてで、どれがおすすめですか?」
柑菜は突然そう言われて驚いたが、「えっと、どれも美味しいので迷ってしまいます……」と返す。
男の人は照れくさそうに「そうなんですね」とこぼれる笑みを浮かべてそう言った。
「当店のおすすめですか?」
すると、秋斗が2人のもとにきて、柑菜と話している男の人にそう尋ねた。
「はい」
「今でしたら、モンブランとかどうでしょう? 秋ですし、おすすめですよ」
秋斗は笑顔を浮かべているが、内心は穏やかではなかった。
男の人が柑菜に話しかけた瞬間から、いつ2人のもとに行くかとずっと考えていた。
そして、その人に笑顔で話しかける柑菜の顔を見ると、もやもやが募っていく。
それに、秋斗は早く柑菜に見せたいものがあった。
一分でも一秒でも早く……。