ケーキ屋の彼

「それに、櫻子は好きな人がいるだろう? 僕の出る幕はないよ」


その空の言葉には、悔しさが込められているように聞こえる。


どこか無理をしていて、自分の気持ちをぎゅっと奥に押し込めて……。


その渋い顔は、ブラックコーヒーのせいなのか、それとも……。


「それより柑菜さん、あの人とうまくいきそうでよかったね」


「あ、うん、おかげさまで」


「はは、僕は何もしてないよ」


自分だけが幸せな気持ちでいると、みんなのそれぞれの思いを知っている柑菜は罪悪感で心がいっぱいになる。


もし仮に、櫻子と涼が両思いでもそれは幸せになれるのだろうか。


そう柑菜は考えてしまう。


「渡辺くんにも櫻子にも、幸せになってほしいな」


「……ありがとう」


そう囁くように言った柑菜に、空は感謝の言葉を述べるのであった。
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