【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜


パウダールームから部屋に戻って、これから使う書類の最終チェックをしていると、なんとも涼し気な顔で、彼がこの部屋に入ってきた。


「綾小路、悪い、今戻った」

「あぁ、お疲れ様です。要人社長…あと30分程で会議始まりますので、ご用意をよろしくお願いします」

「あぁ…と、その前に…」

「はい?」

「そのルージュ、似合ってる」

「!」


なんなんだ、この人は。
こんな風に人を平気で掻き乱す人間を、私は今まで知らなかった。

というか…この3年…いや、正確には"ここ1年"ほどで、一体何が変わったというのか…。

彼の気紛れに付き合っている場合ではないので、私は、一先ず何でもないことのように、一礼だけすると、彼との距離を50センチばかり空けることに成功した。


「そんなに警戒することもないだろう?」

「嫌なんです。社長のそういう所が」

「酷いな」

「酷くないですよ。当たり前の反応です」


ぷい


私はなんとなく泣き出しそうな気持ちを押し殺して、彼から視線を逸した。


こんなのはフェアじゃない。


強引に心を掴まれて、その辺の女性と同じく遊びで終わらせられるなんて、冗談じゃない。
その前に…。

この人は…。
この人は、私の求める相手なんかじゃない。

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