【完】V.I.P〜今宵、貴方だけの私になる〜

ゆっくりと瞬きをする。
胸の前で組んだ手を解いて、かたんと椅子を窓の方へと向けた。


ノイズを含んだはずの景色は、曇天の中でただくすんで足元へ転がっているようで、儚い。

今までどんなことをしても気にならなかった、こうした街並みの気配さえも、彼女との生活の中ではとても重要なことで…。


「ほんと、最強だな…」


ぽつりと本音が溢れる。



偶に見せる、憂いを帯びた表情が過去に縛られていることに、彼女は気付いていない。
深く沈む溜息が、自分の心を押し潰していることも。


「鈍いっていうのも、罪…か」


くるりとまたデスクに向き直り、その上で組んだ指に、気持ち少しだけ力を入れてそう呟くと、コーヒーの良い香りがしてきた。


「失礼します…社長…」

「要人、ほら、言ってみろ」


彼女の声がけに間髪入れずにそう言うと、きっぱりと断られる。

それが、とても爽快でまた酷く甘美な気持ちにさせる。


「い、や、です!」

「本当に、頑なだな…そんなんで何が楽しい?」


そう問えば、心の底から戸惑いを含んだ声で、今度はやんわりと拒否された。
その強弱の掛かった反応に、俺の心は揺さぶられる。


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