君を愛していいのは俺だけ

「もっとこっち来なよ」
「うん……」

 そう言われても、湯が滴る彼の色っぽさに当てられ、今にものぼせてしまいそう。
 まっすぐな瞳で見つめられるだけで、まだ温まりきっていないはずの身体が赤く染まっていく。

 陽太くんと温泉旅行ができるなんて、夢みたいだ。
 湯煙の向こうにいる彼に手を伸ばしたら、ふっと消えてしまわないかと思ってしまうほど。


「っ!!」
「仁香が来てくれないなら、俺が行くしかないでしょ」

 小波を立て、遠慮なく距離を詰めてきた彼の素肌が触れ合う。
 それだけでドキドキしていた鼓動がさらに高鳴り、彼を見れなくなった。


「仁香と温泉旅行ができるなんてなぁ……」
「私も同じこと思ってたところだよ」

 初めてづくしの温泉旅行に緊張しつつも、正面に広がる景色を眺めながら同調する。


「もう会えないって、諦めてたのになぁ」

 七年分を空白をしみじみと言葉にされたら、離れていた間の彼がもっと欲しくなってきた。


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