イジワル騎士団長の傲慢な求愛
「それから、お前もだシャンテル。セシルに遠慮などしていないで、早く嫁ぎ先を決めなさい」

もちろん、とシャンテルはセシルに寄り添う。
シャンテルの瞳もすでに潤んでいて、鼻の頭がわずかに赤くなっていた。

「その命題は、私たち姉妹ふたりで半分こよ。今度こそ、妹にすべてを背負わせなくて済む」

シャンテルの両手がぎゅっとセシルを包み込む。
その腕にセシルは自身の手を重ね、長年姉を苦しめてきた罪悪感を、そして自分自身の押し殺してきた感情を解き放つ。

「――では、この縁談のお話、お受けしてもよろしいですね」

フェリクスはセシルの手の中から手紙を受け取り、伯爵の意思を問うように覗き込んだ。

「うむ。あとは頼んだぞフェリクス。……最後にわしの目を覚まさせてくれてありがとう。よい家臣を持った」

大きく頷いた伯爵に、フェリクスはわずかに安堵した表情を浮かべる。
もしかしたら、セシルたちの知らない間に、フェリクスは政務官人生最大の大勝負に出ていたのかもしれない。
自らの主人に逆らい、意見するという、下手すれば身を滅ぼしかねない選択を。

「……ありがとう、フェリクス。お願いします」

セシルが一粒の涙とともに絞りだした言葉を受け取って、フェリクスは一礼だけするとそそくさと部屋を出ていった。

仕事の早い彼のことだ、早速この書状の返事を準備してくれるのだろう。

縁談の申し出を、喜んでお受けします、と。
< 38 / 146 >

この作品をシェア

pagetop