イジワル騎士団長の傲慢な求愛
ルーファスの言葉に、セシルはふっと表情を曇らせる。
その顔にいち早く気づいたのは、口にしたルーファス自身だった。

「そんな顔をするな。今のところ、破棄にするつもりなどない」

笑いかけられたセシルは思わずうつむいてしまった。
ルーファスに優しい態度を取られると、妙にくすぐったくなってしまう。

考え込んでいたルシウスが、ふとフェリクスに向き合った。

「婚約を知っているものは他にも?」

「公表はしていませんが、屋敷の者には知れています」

つまり、知ろうとすれば割と簡単に手に入る情報だということだ。これだけの人数が働いているのだから、口に蓋はできない。

「……セドリック伯爵は、普段は床におられると聞いたが、なんの病気だ」

ルーファスの唐突の質問に、フェリクスは眉をひそめた。

「……はっきりとした病名はありませんが、体の痺れ、嘔吐、黄疸、また他に同じ病にかかった者がいないことから、伝染性のものではなく、内臓の疾患なのではないかと」

「毒を盛られているという可能性は?」

その場にいた誰もが目を大きく見開く。

「……なぜそのような考えに」

「当然だろう。目的が爵位ならば、真っ先に狙われるのは現在の伯爵だ。彼が死ななければ、アデルやセシルを狙ったところで意味がないからな」

衝撃が大きかったのだろう、シャンテルは口もとを手で覆い、か細い悲鳴を漏らしたあと、今にも倒れそうに体をふらつかせた。
咄嗟に隣にいたルシウスが彼女の体を支え、セシルの横、ベッドの縁に腰掛けさせた。
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