イジワル騎士団長の傲慢な求愛
部屋の中央には天蓋つきの大きなベッド。もちろん、普段はただの客間なのだけれど、今はまるでそのためだけに用意されたような空間に思えてくる。

「こちらに」

暗い部屋の中、燭台の灯もともさずに、窓から差し込む月明りだけを頼りに歩き出す。
ルシウスは当然のようにベッドのもとへ引き導くと、その縁にセシルを座らせた。

「……婚姻まで待てない私を、許してください」

そう囁くと、セシルの体をそっとうしろへ押し倒して、ベッドの上に横たわらせた。

青白い月光がふたりを薄っすらと照らしている。
ルシウスの白金の髪は透き通るように青く闇に溶け、瞳はその色を強くする。
閉じられた瞼が、セシルのもとへ近づいてくる。

自分は彼の妻となる。いずれ身も心もすべて捧げることになるだろう。
それが今か、もう少し先になるかの違いだけだ。怖いことなどなにもない。

――けれど。

(――やっぱり、私は――)

思わず彼の胸に手をついて拒むと、ルシウスは瞳を開け、虚ろに首を傾げた。

「……許してはくれませんか?」

「……結婚の前にそういうことは……」

「本当に、理由はそれだけ?」

セシルの乱れた前髪をかき上げながら、ルシウスは悲愴な声で囁く。

「あなたの瞳は、兄を見てばかりだ」

ドキリとして唇を震わせるセシルを見て、ルシウスは忌々し気に瞳を細めた。

「ですが、結婚するのは俺です」
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