浅葱色の鬼
人になるために
やらなければならないこと
人になった後のこと

それを確認すべく、崩れた社へ



私の生まれ育った社からは、木や草が
生えて、姿を隠しているようだった


「なんだ!?跡形もねぇな!!」


護衛の藤堂が驚き、声をあげた


「跡は、ある」


「いや、あるけどさ… 
こんなすぐに、木とか生えないでしょ」


「私が森へ返したからだ」


「命って、凄いね」


「この世では、必要ない力だがな」


「でもさ その力に俺は助けて貰ったから
紅音が命で、俺達と出会ってくれたから
今、俺が生きてる!」


「藤堂のような男を救えたのなら
私の力も満更無駄ではないのかもな
さて、やるか」


藤堂が頷いたのを確認して

欲しいものを思い浮かべながら
力を使う



私の父は、良く書き物をしていた
土方に負けないくらい
いつも机に向かっていた


何を書いているかなんて
気になりもしなかった


今ならわかる

あれは、私の為に書いていた

私を置いて先立つ支度をしていたのだ




私が、自分の記憶を消す前に
自分宛に文を残すように





藤堂と見つけた書物を
それぞれ、読んでいく


「紅音… これ…」





藤堂の目が、潤み
私に人になることを辞めろと訴えていた

藤堂が手に持つ紙に書いてあった


〝完全な人には、成り得ない〟


その一言が、藤堂を不安にさせたようだ




「命は、生まれた時に誰と結婚するか
決められているが、私の両親は恋をした
父は、子よりも母と長く暮らすことを望み
命でいるようにと頼み
知人から、引き取った私を育てさせた
母は、私を育てるうちに父との子を望むようになり、父に内緒で人になった」



藤堂に、私が手に持つ紙を渡した



「母は、人の持つ感覚を喜び
とても、幸せだったようだ
私のぬくもりが心地良いからと
死ぬまで抱きしめていたそうだ
亡くなったのは、人になってから100日」


藤堂の目から、涙が流れていた

私の為に、泣いてくれているのだろうか



「このこと、皆には内緒にしてくれ
この母に育てられた娘だ
人になりたいと思うことは、当然だ
私も、人の感覚が欲しい
例え、100日と限られているとしても」


「紅音…」





藤堂は、涙を拭くと
再び書物に向かった




優しく、純粋な心を持っているんだろう




今日の護衛が、藤堂で良かった






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