浅葱色の鬼

歳三

長く雨が続いて肌寒くなってきた

何かを調べていた藤堂と紅音が
出掛けなくなった


人になる支度が整ったのだろうか



溜まった書き物を済ませ
首を回しながら、廊下に出ると



「にゃーん」


足元で蒼が鳴く




庭先には、ずぶ濡れの紅音がニコニコと
両手を広げて天を仰ぐ



「おい 風邪ひくぞ!」


テクテクとこちらに近づくと



「雨に打たれると風邪をひくのか?」


紅音には、寒さは感じない


「そうだ
早く着替えをしろ」


「人になったら、もう一度したい」


「風邪ひくって、やめとけ」


「なら、もう少し」



なにが楽しいのか
雨と遊んでいる紅音を不思議におもい
見ていると


紅音の結婚相手が病で亡くなったことを
ふと、思い出した

そうだ

命も病になるんだ




「紅音!!もう戻れ!風邪ひくぞ!」



キョトンと目を丸くし、「わかった」


廊下に上がる前に、着物を絞ると
水がたくさん出る

それを見て


「土方 これじゃあ廊下が水浸しだ」


困った顔をした

子供みたいな紅音に、思わず笑ってしまう


「俺も着替える」


と、前置きをしてずぶ濡れの紅音を抱え
紅音の部屋へ連れて行く


「着替えたら俺の部屋にこい」

「わかった」



寒さがわからないから
体が冷え切っているだろう



火鉢に火をおこし
小姓に熱い茶を頼んだ



「来たぞ」


紅音を火鉢に向かわせて
後ろから抱きしめる

想像以上に冷えた体は、少し震えていた

それさえ、本人は気がついていない


「なにしている」

「風邪をひかないように暖めてる」

「雨は、冷たいのか…」

「そう!だから、傘さして歩くだろ!?」

「雨や雪の日は、出掛けないように言われていた」

「なら、なんで…」

「雨が冷たいこと…きっと、人の子でも
知っているはず
でも、私はまだ知らない
冷たいことが、どんな感じなのか
風邪をひいた人を見たことがあるが
きつそうだったから、風邪はいやだ」

「フッ なんだそれ 手出してみろ」


片膝に紅音を乗せ
紅音の両手を包む
冷えたその手に はぁ と、息をかける


「……」


無言で俺を見つめる紅音
八木邸で見せた思い出せないが
懐かしいといった顔だ


「よし!暖かくなったぞ!」


喜んでいる俺をクスクス笑う


そんな紅音に口づけをする



「なんの真似だ」


真顔で返される


「……な、なんとなく」









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