英雄は愛のしらべをご所望である
「……やっぱりついて来るべきじゃなかったんだなぁ」


セシリアの声は、誰もいない控え室によく響いた。部屋には、中央に置かれたテーブルと囲むように設置されたソファしかない。お客様というより、使用人扱いだ。

いや、弟子もある意味、使用人と変わりはしないだろう。ラルドの世話をしているセシリアなど特に。
きっと、なぜついてきたのか、と思われたに違いない。


「だけど、あの服にも問題があると思うわ」


足を組み、頬づえをついたセシリアは、ラルドに送られてきた衣装を思い出す。幾重にも重ねられた布、ジャラジャラとした装飾品の数々。どこかの民族衣装かと思えるほどのそれは、確かにラルドが着ると触れてはいけないような神秘的なものになるのだが、いかんせん動きにくかった。もちろん、ラルドならばどんな服装でも素晴らしい演奏を披露するだろうが、楽器を運ぶにしろ、馬車に乗るにしろ、何かとサポートが必要だったのだ。


「少し考えればわかりそうなことなのに……なんだかガッカリ」


貴族はみんな素晴らしい人達だ、とまでセシリアは非現実的な考えを持ってはいない。
けれど、学ぶのもやっとの生活をする市民と、たくさん学ぶ機会のある貴族では、知識量が違うと思っていた。実際、学問で言えば差は歴然なのかもしれないが、学校で学ばずとも誰もがわかりそうな些細な配慮ができないことを知ると、少しだけ残念に思う。

これも、ラルドの言っていた理想と現実の違いというやつなのだろうか、とセシリアは肩を落とした。
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