臆病なきみはうそをつく
「……………か……」

「……っ」


かすれた声が聞こえた。

そして冬室くんの身体がぴくりと動く。


「………ふ、冬室くん………!?」

「…………かさ、はら………さ………」


冬室くんの目がうっすらと開かれる。

とたんに回りはざわめき、ホッとしたような歓声があがった。


「………ふ、冬室くん……」


私の目からはさらに涙があふれだし、ぽろぽろとこぼれる。

『もうすぐ担架がくるから動かすなよ』という誰かの声が聞こえた。

だから私は冬室くんの手を出来る限り優しく握った。

指先が小さく動いたのがわかる。


「かさはら、さん………」

「冬室くん……っ?」

「ごめん……ね……」

「え……」


耳を澄ませないとよく聞こえないほど小さい声。

普段の冬室くんからは考えられないほどの。

私は耳を近づけた。


「………かさ、はらさん………のことを、傷つけた……」

「………」

「居場所……が、ほしい気持ちは………僕も、わかるのに……」

「………!」


それは、私の本心すべてを見抜くような言葉だった。

画面の向こう。小説の世界。うそばかりだった私の小説。

でも、それでもずっとそれだけが私の世界だった。


だってリアルに私の居場所なんてなかったから。


友達も、とりえもなくて、劣等感だらけの私。

画面の向こうの世界は、そんな私を認めてくれた。

私の生み出すものを受け入れ、好いてくれた。


それは私にとって何よりもの快感。

失いがたい居場所だった。


でも………




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