臆病なきみはうそをつく
「……うそじゃないこともある」

「え……」


冬室くんの息が、私の前髪にかかった。

熱い吐息がふれるほど、彼の顔が近くに。


「うそじゃないよ、笠原さん……」


近づく顔、絡み合う眼差し。

さらりと冬室くんの前髪がふれて、くすぐったい。

彼のしようとしていることがわかり、私は……



私は目を閉じた。

それが合図だった。



「少なくとも、僕の気持ちはうそじゃない……」


ーーーすきだよ。


その言葉が、直接、私の唇に吸い込まれていく。

ふれあう唇。

冬室くんの体温を直接、ハッキリと、感じた。



「……冬室くん」

「笠原さん」

「あのね、私……今日、シュートを決められたの………。
冬室くんのおかげだよ、……ありがとう」

「そっか。良かった………」

「今までね、本当にありがとう。
それで、良かったら………これからも、仲良くしてほしい……」

「…………うん。もちろん」


冬室くんがしっかりとうなずいた。

私も同じようにうなずいて返す。

手と手を繋ぎあい、今度はさっきより長めのキスをした。

いま、このとき、私と彼の気持ちは一緒だと思った。

通じあったと思った。



私は、この人が好き。

この人も私のことが好き。


うそばかりの世界で、これだけはうそじゃない。

幸せだった。
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