嫌いになってもいいですか?
発進すると、龍二は私の手の甲を包み込むように握った。龍二は無表情で、真っ直ぐにただ前を見据えている。


「いろいろと、その、」


毎度のことだけど誤解したり、信じなかったり。私、龍二にもっと責められてもいいような気がする。


「なんか……ごめん、ね?」


反省を込めて、ドライバーに聞こえないように小声で言う。
一旦ぷいっと窓の外に目をやった龍二は、次に私の耳元に、スマートな動作で口を寄せた。


「早く抱いて欲しいのか? 有紗」


吐息交じりで囁いた。
今のは絶対、わざとだ。


「っ! ち、違……!」
「え? この角、左じゃないんですか?」


ウインカーをあげたドライバーが私の言葉に反応して、ルームミラー越しに怪訝そうな目を寄越す。


「いや、合ってますよ」


事も無げに言った龍二は、くっと堪えるように笑って続けた。

そして、意地悪そうな声で。


「一晩中、離さない」


私の手を握る龍二の手に、力がこもったような気がした。

私は火が出るくらい熱くなった顔を窓の外に向ける。すると込み上げてくる恥ずかしさと怒りが、なんとか収まってきた。
いや、正確に言うと、嬉しさの方が上回ったのかも。

あれは夢じゃなかったのかな……?


『どんな夢みてたんだ?』


今夜は極上に甘い夢をみたいよ。
愛おしい人の胸の中で。
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