嫌いになってもいいですか?
説明なんて必要ない。

そのままの君に惹かれたんだ。





「__そのブラウス、不良品か?」


入荷した商品を検品中。
一着のブラウスを手にしたまま、固まっている佐野に俺は声を掛けた。


「いえ、違います」


はっとした顔でこちらを一瞥した佐野は、すぐにキリッと引き締まった表情に戻る。
てきぱきと手を動かし、入荷商品の一覧表に目を落とすと品番を照らし合わせている。

佐野がじっくり見つめいてた白いシンプルなブラウスは、自社でデザインし生地から選んで製造した商品だ。

数年前に自社製品の開発を打ち出したのは、ファッションビルサガミの取締役である、俺の叔父だった。
なるべくトレンドにあまり偏らない、オフィスで働く女性が着用しやすいベーシックなデザインと、着心地の良さが売りだ。
例えば佐野が持っていたブラウスなら、ジャケットの中でも動きやすいようにポリウレタン混であるとか、ボトムスにインしやすいよう丈が長めになっている、とか。
ニーズに応え、手頃な値段であることから人気の商品だった。

父の弟である彼は、他にも通信販売を始めたり、海外のコーヒーショップやお洒落なスイーツビュッフェなど、人気のテナントにはどんどん出店を依頼した。
お陰で数年後には消えるとまで言われていたファッションビル・サガミは、売上を持ち直しつつある。

俺は叔父を尊敬している。
叔父の手腕で、百貨店の良い面だけを残し、集客力があり郊外にどんどん建設されているショッピングセンター化を目指すため、サガミはこれまでの形態に囚われない新しいビルに変貌を遂げた。

新しい風が吹く中、尊敬出来る上司のもとで働くことを、今は有意義に感じている。こんな心境、数年前の自分からはとても想像できない。
傾いているビルを三兄弟のうち、末の俺に押し付けた父親に対する不信は、未だに消えないが。
< 111 / 275 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop