嫌いになってもいいですか?
吹き抜けになっている二階フロアから一階のエントランスを見下ろすと、お客様が切れ間なく入店する光景が見えた。そのひとりひとりに挨拶し、龍二が迎えている。

期待に満ちた笑顔で入店するお客様とすれ違い、私は足早に売り場に戻った。
取材中のテレビクルーも見かけた。

今夜は午後六時頃から閉店時間の午後九時まで、館全体がライトアップされる予定になっている。館の前の遊歩道にはベンチも多数設置されているし、デートスポットとしてもきっと人気になるだろう。


「戻りました、美濃チーフ。すみませんでした」
「あら、お帰り。佐野さん」


ちょうど接客を終えた美濃チーフが、一礼して顔を上げた私の顔を覗き込む。


「ちょっと赤いかな? 頬」
「えっ⁉︎」
「いつもナチュラルメイクの佐野さんが、こんなにチークが濃いはずないわよね?」


美濃チーフは私が今までどこでなにをしていたか万事お見通しとでも言うように、ふふっといたずらに微笑んだ。


『顔、すげー赤くなってる。ちょっと冷ましてから売り場に来い』


からかわれて余計に熱くなる両方の頬に手をやり、大袈裟に顔を背ける私の反応を見て、美濃チーフはクスクスと笑っている。

し……仕事仕事!
さあ! 私も仕事に集中しなきゃ!
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