嫌いになってもいいですか?
佐野有紗、二十四歳。
ファッションビルサガミ東店に入社二年目。あ、もうすぐ三年目。

私の担当は、自社が開発した婦人服の売り場。
ファストファッションや通販が当たり前になった昨今、アパレル業界は厳しいなんて言われてるけれど、うちの売り場はその限りではない。
なぜなら、敏腕チーフが売り場を管理しているからだ。


「有紗、休憩入れる?」


一階の、靴とバッグ売り場担当である同期の瞳は、六階のバックヤードの奥にある社員食堂に行く途中、必ず二階の婦人服売り場を通る。
一緒に休憩に入れるか、様子を見に来る。


「うん……これ着せたらね。ちょっと待って」


お客様の目に多く触れる機会がある、エスカレーターを上ってすぐのディスプレイは、いつも一押しのコーディネートにしている。
さっき、顧客様がお嬢さんを連れて買い物にやって来て、マネキンに着せていた
ワンピースや靴、バッグをセットでお買い上げくださった。

なので、新しいワンピースに着替えさせてる最中なのだ。


「あー、このワンピース、昨日ドラマで女優さんが着てたよね。最近雑誌でもばんばん取り上げられてるし、可愛いよね!」


目をきらきらさせて瞳が言った。

マネキンにワンピースを着せて、最後に片方の腕を嵌める。コツがいるのでググッと押し込めながら、さすが相模チーフだな、と思った。

タイアップとかも調べてるんだ。三月だし、まだ薄手のワンピースを着せるのは早いかと思ったけど、全然そんなことなかった。
それに顧客様とのご関係も良好で、本当に尊敬する。見習わなくちゃ……。


「こっちもすぐに売れちゃいそうだね」



マネキンをバランスよく配置していると、腕を組んで眺めていた瞳が残念そうに言った。
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