ライアーピース



どうして?前はこんなこと、
なかったのに。


前だったら1日、
記憶は1日中保っていたのに・・・。


急に分からなくなったのは
初めてのことで、私はとても驚いた。


目の前の陸は
フリなんかじゃないってことがよく伝わる。


変な汗をかいて、身体を震わせる陸。


私はどうしたらいいのか
分からずただ陸を見つめていた。


「陸.私だよ。若葉だよ」


「・・・わ、かば?」


「そう。陸の・・・陸の・・・っ!」


―もし若葉が嫌じゃなかったら俺と―


その先は分かっていた。


分かっていたから私は・・・。


「陸の彼女だよ。若葉だよ。分かる?」


「あれ・・・俺、
 なんでこんなとこに・・・」


「今日は一緒に夏祭りに来たんだよ?
 ほら、浴衣も着て、下駄も履いて。
 どうしちゃったの、陸。
 急に分からなくなったの?」


「ああ・・・誰だか知らねぇけど、
 前に受けた傷が痛む瞬間、
 何も分からなくなることがあるんだ。
 ・・・お前は誰だ?」


前に受けた傷。


私は陸の額を見た。


髪に隠れている傷は、
風が吹くたびに見え隠れする。


それにそっと触れると、
陸は瞬間、びくっと身体を震わせた。


「えっ・・・陸!?」


痛そうに顔をしかめる陸は、
次第に落ち着きを取り戻したのか、
私をゆっくり見つめた。


「若葉?」


「り、陸・・・」






戻ってる・・・?



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