ライアーピース



もう訳が分からない。
それは陸も同じみたいで、
私をじっと見つめた。


「あんた、誰なんだ?」


「・・・・わ、私
・・・二宮若葉だよ」


「二宮?・・・知らないなぁ」


ズキ・・・。


今までの“お前は誰だ”よりも辛い。


いつもはすぐに思い出すのに・・・。


私はそんな陸を見て、
ただ唖然とするしかなかった。


唯って誰だろう。


彼女って言ってたけど・・・
本当なのかな?


それは私が知らない中学3年の
夏までに付き合っていた彼女なのかな。


思い出したってことはよほど
好きだったんだろうと私は思った。


陸から他の女の子の名前が
出るなんて思いもよらなかった。


「それより、唯は?俺、
こんなとこ知らねえ。東中のはずなのに」


東中・・・。
隣町の中学だ。


陸は知らない間に近くにいたんだ。


あのいなくなった小学生の頃、
どこを探してもいなかったのに。


きっとどこかからまた戻ってきてたんだね。


そう思うと嬉しくなる半面、
私に会いに来てくれなかったことに落胆する。


そっか、唯って子がいれば
陸にとっては十分だったんだ。


私はその唯って子が羨ましい。


だってこんなにも、陸に思われて、
何度も名前を呼ばれて、そうして
一緒に笑い合ってきたと思うと、


羨ましくて自分が惨めになる。


自分はただ“嘘”で塗り固めた記憶の
陸としかいられなかったのに、


唯って子はちゃんと
好きになってもらったんだ。


私の作り出した記憶は
一瞬のうちに崩れ落ちた。






はめたピースが剥がれ落ちる、
そんな悲しい音が聞こえた。




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