ライアーピース



家に帰って、
ベッドへ飛び込む私。


枕に顔を押し付けながら、
ただひたすら泣いた。


苦しい。苦しい。苦しい。


陸にキスをされて、
あの時の幸せがぐん、と一気に戻ってくる。


優しい瞳で、
私だけをみてくれていた陸。


私を好きだと言ってくれた陸。


そんな陸はもういない。


陸にはもう、唯という、
唯一無二の彼女がいる。


あんなに楽しかったのに。


あんなに幸せだったのに。


こんなことになるなら、
あんな嘘、つくんじゃなかった。


そうしたら今ごろはきっと、
もっと違う結末を迎えていたはずなのに。


それなのに、私は一時の
幸せのためにあんな嘘をついたんだ。


これが永遠に続くものではないと
わかっていながら。


「陸っ!陸、陸、陸ー!!」


何度も陸の名前を呼ぶ。


呼んだって届かない。


いくら名前を呼んでも、
陸が振り向くことはない。


ふと、陸が合宿中に
言った言葉を思い出す。


『怖いんだ。今日、お前のこと好きでも、
明日の朝には忘れてる。それがだんだん
悪化したとして、そのうち何も
思い出せなくなったとしたら俺・・・』



大丈夫、私が覚えてる。そう言った私。


あの話が、現実になるなんて
思いもしなかった。


恋がこんなにも辛いものだと知っていたら、
私は絶対に恋に憧れたりなんかしなかった。


恋がこんなにも苦しいのなら、
私は絶対に人を好きになったりしなかった。


「陸・・・」


こんなに、こんなに取り返しのつかないくらい
陸のことを好きになっていたなんて・・・。


ただの幼馴染のはずだった。


それだけで良かったはずなのに、


この恋を知ってから私は
どんどん欲張りになっていったの。


もっと私を見てほしい。


私だけを想ってほしい。


私だけの陸であってほしい。


ふいに唯とキスをしていた陸を思い出す。


ねえ、どうして?


唯じゃなく私がいるよ?私を見てよ。


私を独り、置いてかないでよ。


この日私は、あの日と同じように泣き続けた。


陸がいなくなったあの日のように。






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