ライアーピース



びっくりしてお母さんの方を見ると、
お母さんは肩をすくめて笑って見せた。


「確かに陸くんを騙したってことになるけれど、
その間若葉はどうだった?」


「どうって・・・」


幸せだったよ。十分。


楽しくて、毎日がキラキラしていて、
幸せだった。


お母さんは私の返事を待たずに
口を開いた。


「若葉の母親としては、
あなたが幸せそうにしていたことが嬉しいのよ」


「嬉しい・・・?」


「でもね、後悔するくらいならそんな嘘、
つかないほうがよかったかもね」



ほら、やっぱりそうじゃない。


私が目を伏せると、
お母さんは続けてこう言った。


「つまり、何が言いたいかというとね?
後悔はするなってことよ」


「えっ・・・」


「後悔している暇があるなら、
全力で陸くんにぶつかっていけばいいじゃない。
唯って子がいるからとか、
自分は嘘をついたんだとか、

そんなことは放っておいて、
自分の心に正直になりなさい。


一度決めたら、後悔なんかしちゃダメよ。
あなたの貴重な“恋”なんだから」



お母さんがそう言うと、
なんだか心が少しだけ軽くなった。


「お母さんもね、
昔同じようなことをしたわ」


「え?」


「若葉と同じように“嘘”をついたの」


お母さんは話し始めた。
いつの間にか、私の隣に座って。


「自分の心に嘘をついた。
好きな人がいるのにそれが恥ずかしくって。
ある日みんなの前でそれがバレちゃったの。
だから咄嗟に“好きじゃない”と嘘をついたわ。

そうしたらその彼、
彼も私のことが好きだったみたい。
私がそれを知ったのは、彼が転校してしまった後だった。
それまでお母さんはね、
『好きじゃない』って意地っ張りになって嘘をついていたの。
嘘をついて、友達のフリをして。
そうして側にいたわ。

そしたら彼、突然いなくなっちゃうんだもの。
声をあげて泣いたわ。
あの時もっと素直になれていたらって」



お母さんの横顔は真剣で、
どこか愁いを帯びていた。



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