ライアーピース



振り返ろうとすると、


「そのまま聞いてくれ」


陸がそう言った。


掴んだ手は、更に力がこもる。


陸がヒュッと息をする音が聞こえた。


「ごめん。俺、正直何も思い出せない。
 お前のことも、
 唯やばあちゃんのこと以外は何も」


「・・・・・」


「だけど、なんでかわかんねぇけど、
 お前だけは・・・」




陸の声が震えた気がした。



「お前だけは、忘れちゃダメだって、思った。
 思い出せないくせに何言ってんだって
 思うかもしれないけど・・・。
 とにかく今一番思い出さなくちゃいけないのはきっと・・・」



「・・・・・」



「お前のことなのかもしれない」




「陸・・・・」




「時間はかかるかもしれない。
 だけど、ちゃんと思い出すから。


 だから、だからもう泣くなよ。
 お前が泣くと、俺が困るんだよ」




「何それ」





「お前だけは泣かせたくない。
 なんでかそう思うんだよ」






必死で自分の言葉を伝えようとしてくれる陸に、
思わず涙が溢れた。



「待っててほしい。ちゃんとお前のこと、
 思い出すから。だからそれまで、
 待っててくれないか?」



私は陸の手をようやく振り払うと、
扉を開けて家の中に入った。


ドアが閉まった途端、涙が止まらなかった。



ごめんね。謝らなきゃいけないのは私のほうだ。



陸に掴まれていた腕が熱を帯びていた。
陸に、抱きしめられているような気がした。




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