フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
「あの」

私の背後にいたここに残った方のもう一人の男性が声をかけてきた。

ペーパータオルで汚れを拭きながら
「何でしょう」と視線を合わせず答えた。

「すみません、本当にご迷惑をおかけしました。お礼と汚してしまったお詫びがしたいのであなたの連絡先を教えていただけませんか?」

私はチラリとも男性と視線を合わせることもせず汚れた手をおしぼりで拭った。

「いえ、結構です。たまたま通りががっただけですし、何も特別なことはしていませんから」

「でも、ずいぶん汚れてますし」

「いえ、本当に」私は固辞した。

「そうですよ、何にもしていないわけじゃないです。
皆さん、酔っぱらいだと思っていたのに、あなたはすぐに異常に気が付いた。
顔を横に向けて嘔吐物の誤飲を防いだり、症状の観察も処置も完璧でした。お礼はともかく新しいハイヒールの1つも弁償してもらってもいいんじゃないですか?」

そんな男性と私の会話に片づけをしていた若い救急隊員が口を挟んできた。

私は隊員を見て苦笑した。

「いえ、本当にいいんです」

「でも、汚れてしまってこのまま帰宅も大変ですよね」
と親切な隊員は帰宅の心配もしてくれるけれど、今は有難迷惑だ。




< 4 / 142 >

この作品をシェア

pagetop