フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
エレベーターで役員フロアに上がり、秘書室で挨拶をする。今度は秘書室の皆さんの視線が痛い。
胃がきりきり痛みそうな程だった。
そんな緊張がほぐれたのは、専務室…ではなく社長室だった。

社長室で社長に挨拶をしていたら、修一郎さんと佐々木さんが急用で席を外すことになり、一人にすることができない私は社長室に残されたのだ。

いや、修一郎さんは専務室に連れて行こうとしたのを社長が引き止めた感じだ。
「ノエルちゃんはここで預かるからお前たちは仕事に行け」と。

「井原社長、お忙しいのにお邪魔して申し訳ありません」と頭を下げると、
「ノエルちゃん。うちの妻のことは『お母さま』って呼んでいるのに僕は『井原社長』なの?」
と苦笑された。

「いえっ、あのっ」
そうか、そういえばそうかも。
「修一郎さんのお母さまとは打ち合わせで何度も顔を合わせて、何度か食事も共にしたので気が付いたらそうお呼びしていたかも…」
言葉を濁した。

「では、僕のことも『お父さま』がいいなぁ」
にっこりと笑った。
あ、笑顔は修一郎さんに似ている。

「でも、会社でそういうわけには…」
「いや、僕はノエルちゃんに『お父さま』と呼ばれたい。だって、妻と違って社外じゃなかなか会えないじゃないか」
と主張する。

ああ、この感じ。
さすが修一郎さんのお父さま。そっくりですよ。
修一郎さんの頑固なところはお父さまの遺伝子なんですね。

「はい、わかりました『お父さま』」
にっこりすると、『お父さま』は破顔した。
結局、修一郎さんが迎えに来るまで社長室でお父さまと2時間も過ごしていた。

修一郎さんに連れられて社長室を出て行く時に
「ありがとうございました。お邪魔しました、お父さま」とお辞儀をすると修一郎さんがピタッと立ち止まって私を見た。

お父さまは面白そうに修一郎さんを見た。
「修一郎、ノエルちゃんのデスクは社長室に置いてくれよ」
とからかうように言うから
「絶対に置きませんよ」
と私の手を引っ張って行くから、修一郎さんと手をつないで社長室を出ることになってしまった。

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