フェイク アフェア ~UMAの姫と御曹司~
その時だった。

「ノエル!」
大声と同時に右腕を強くつかまれた。

この声は・・・


私の身体は修一郎さんに引っ張られて間一髪、落下から逃れた。
そして、修一郎さんの胸に抱かれている。

まだ、出張中のはず。どうしてここに。ホッとして、膝の力が抜けていく。

「ノエル」力強く私を抱えなおすと、修一郎さんは低い声を出した。

「樺山、お前、今何をしたかわかっているのか!」

突然現れた修一郎さんに驚いたのは私だけではない。

「私はただ、安堂さんとお話をしていただけです。話しているうちに安堂さんが階段を踏み外しそうになっただけで」
樺山さんは全身をがくがくとさせ震える声で修一郎さんに言い訳を始めた。

私の頭はしっかりと修一郎さんの胸に押し付けられて固定されるように抱きしめられていたから、修一郎さんと樺山さんがどんな表情でやり取りしていたかわからない。

続いて背後から佐々木さんの声が聞こえた。

「樺山の声とノエルちゃんの悲鳴は廊下まで聞こえていた。嘘はいらない」

「お前の親がうちの取引先だとかそんな事はどうでもいい。俺は俺のノエルを傷つける奴は許さない。覚悟しろ」
そして、いつもの穏やかな声じゃない、私が聞いたことのない修一郎さんの声だった。

修一郎さんの腕の中で身体を固くしているとさらにバタバタと足音がして
「専務!大丈夫ですか?」
と秘書室長の声が聞こえた。

「義兄さん、室長、後はお願いします」
修一郎さんはひょいと私の膝に腕を入れて私を横抱きにして、歩き出した。

「ああ、任せて」

佐々木さんの声が聞こえたけれど、まさかこのお姫様抱っこの状態で専務室に戻るの?

「しゅ、修一郎さん」
私歩けます、と言おうとした。

「ノエル、黙って抱かれてて。俺、ちょっと怒ってるから」
その低い声にびくっとする。


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