オトナの恋は礼儀知らず
「だいたい子どもはいたって離婚してるのかもしれないわよ。」

 それならば娘が彼女を作れと勧めるのも理解できる。

「だとしてももう終わったことなの。」

 話すんじゃなかった。

 生理も来た。
 これで何もかも綺麗さっぱり忘れることができるんだから。

「何よ。せっかくしたのに覚えてないのなら、もう一度味わってみなきゃ。」

 桜川さんも同じことを言っていた。
 ただし品のある言葉だったけれど。

「やめて。一夜の過ちよ。」

「そんなこと言って私に話すくらいだから心に引っかかるものがあったんでしょ?」

 心に引っかかっていたのは、真面目な外観に反した行動をされたからだろう。
 真面目な外観に似合わず不倫。

 でもこれはシングルならクリアされる。

 そうだとしても……。
 よく知りもしない何処の馬の骨とも分からぬ女と一夜を共にするなんて。

「触れられた感触とか覚えてないの?」

「ちょっとやめてよ。」

 理香子は明るい時間帯だろうと場所がどこだろうと卑猥なことを平気で言う。
 あぁでもここだから触れられた感触程度の言葉に収めているのかもね。

 触れられた感触…………。

 あの節の太いゴツゴツした手で……。

「発情しないでよ。」

「これ以上ここで卑猥な単語を喚かないで。」

「喚いてないわ。
 冷静に分析しているだけ。」

 とてもランチ時のレストランで話せないようなことを平気で口にするのはいつものこと。

 そう。いつもなら面白おかしく聞ける。
 今は聞いてられない。

「気になってるんじゃない。
 友恵のそんな顔を見るの長い付き合いで初めてよ。」

「だからそんなんじゃないわよ。」

 覚えていないから余計にいけない想像をしてしまうだけ。

 それに誰かに相談できる内容ではないから秘密にするしかなくて余計に膨れ上がるだけ。

 しかし理香子に話したところで終わらせることはできなかった。

 ただ見ないように蓋をして心の奥底に追いやるだけ。
 そしてそれは見えなくなっただけで心の奥底でブスブスと燻っていた。

< 15 / 78 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop