オトナの恋は礼儀知らず
 外に出ると雨が降っていた。
 マスターが貸してくれた傘をさして歩く。

 なんだか酔う気になれなくて早々に出てきたのだ。



「あの日は……というより毎回、ご自分でしっかりとした足取りで帰られますよ。」

「え……私、誰かと飲んでなかった?」

「はい。意気投合していました。
 その方は帰る時すごく心配されていましたよ。
 送ると言うのに大丈夫と断られていたので。」

 自分の性格というものを自分ほど分かっていないものはないと思う。

 自分が可愛く人に送ってもらうわけがない。

「心配しつつも、その方はずいぶんしてから帰られました。」



 何が聞きたかったのだろう。

 傘は雨が当たって騒がしい音を立てている。
 その中で雨を凌ぐ友恵の心は静まり返っていた。

 酔いたいのに酔えなかった。

 傘の柄を握って、傘を放り出して駆け出したい気持ちを堪えた。

 傘には変わらず雨が降り注いでいた。




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