恋愛ノスタルジー
普段冷静で冷ややかな彼を、しどろもどろで
落ち着かなくさせてしまうんだ。

こんなにも花怜さんは圭吾さんを夢中にさせているんだと思うと、まだ見ぬ彼女の姿を想像せずにはいられなかった。

店員さんは「ごゆっくり」と微笑むと新たなお客さんの元へと去っていき、圭吾さんは少しホッとしたように息をついた。

「ネックレスでも指輪でもいい」

「圭吾さん」

ショーケースに視線を落としていた圭吾さんが、少し改まった私の口調に視線をあげた。

「ん?」

恐かった。

でも、訊きたい。

「どんな人ですか」

意気地のない私は、花怜さんの名前を口に出せず、こう聞くのが精一杯だった。

そんな私を見て、圭吾さんが動きを止めると唇を引き結んだ。

「どんな人か少しでも分かると……彼女好みのものが選べそうな気がして」

出来るだけ自然に言ったつもりなのに、何だか自分の声じゃないみたいだ。

やがて、恐くて震えそうになる私の耳に圭吾さんの声が届く。

「可愛くて凄く純粋で……とても素敵な人だ。値段はいくらでも構わないから彩の気に入ったものを選んで欲しい」

真っ直ぐで、潔い眼差し。

いつも素敵だと思っていたその瞳が、私の心臓を刺し貫く。

「……分かりました」

みるみる涙が溢れてきた。

俯いてそれを隠すと、涙が落ちるギリギリで彼に背を向けた。

一番離れたショーケースに足を進めながら、泣くな泣くなと呪文をかける。

好きな人の恋人の為にクリスマスプレゼントのジュエリーを選ぶ私は、きっと愚かな女だろう。

でもいい。

これはきっと罪と罰。

男性を見る眼がないからといって恋愛を諦めた罪と、婚約者がいるにも関わらず他の人に想いを抱いた罰。

私はこれ以上涙が出ないようにと祈りながらキラキラと光輝くジュエリーを見つめた。
< 127 / 171 >

この作品をシェア

pagetop