恋愛ノスタルジー
必死で思い出そうとする私を見て圭吾さんがクスリと笑った。

「お前は眠ってる俺にこう言ったんだ。『峰岸の家に生まれただけでなんの取り柄もない私と結婚しなきゃならなくなって本当にごめんね。私、三ヶ月後にあなたの奥さんになったら、出来るだけあなたが穏やかに暮らせるように頑張ります』って」

あ……!そういえば……。

圭吾さんが私の腰に腕を絡めて続ける。

「その言葉を聞いた時、凄く嬉しかったよ。生涯をかけてお前を大切にしたいと思った。それから……バカな計画を企てた自分に嫌気がさした」

……確かに、このソファに座ったまま寝ちゃってた圭吾さんに私はそう言った。

……独り言のつもりだったのに……。

だって、面と向かってそんな事言えないもの。

でも……。

「……聞いてたって事は寝たフリをしてたんですか?」

「っ……それは」

決まり悪そうな顔が、悪戯のバレた子供みたいだったから私は声を立てて笑った。

「一緒に暮らしているうちに圭吾さんの印象がずいぶん変わりました。越してきた当初は嫌われてると思ってて怖くて。けどインテリア雑貨を貸してくれるだけでなくわが社に運んでくれたり……本当は優しいんだなって思って……それから」

ドクンドクンと胸が鳴る。

けど、ちゃんと伝えないとならない。

今度は自分から、私は圭吾さんと繋いでいる手に力を込めた。

「それから……美月は恋じゃないって言ったけど……圭吾さん。私、やっぱり凌央さんが好きでした。……恋だと思います」

たちまち圭吾さんの眼が見開かれ、その後すぐそれが伏せられた。
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