恋愛ノスタルジー
「……泊まり込むのか?」

「忙しくなると……そうなるかも知れません」

「……」

小さな音を立てて圭吾さんはワイングラスを置いた。

その顔はどこかムッとしていて、形のよい唇は固く引き結ばれていた。

私を気の毒だとでも思ったのか、圭吾さんは厳しい表情のままワイングラスを凝視している。

その表情を変えたくて、私は明るくこう切り出した。

「圭吾さん。花怜さんへのプレゼントもう選びましたか?この間見つけたんですけど代官山の《アルテミス》っていうジュエリーショップに可愛いのが沢山ありましたよ。私もボーナスが出たら買おうと思ってるんです。自分へのご褒美に」

「……そうか。僕はそろそろ寝る」

「あ……おやすみなさい。また明日ね、圭吾さん」

圭吾さんは席をたつと私を一度も見ず、リビングから出ていってしまった。

……どうしたんだろう、圭吾さん。

まさか、花怜さんと喧嘩してるとか……。

そういえば圭吾さんって私の話ばかり聞いてくれる。

圭吾さんのワイングラスを見つめていると申し訳ない気持ちが込み上げてきた。

圭吾さんがもしも花怜さんとの事で何か悩んでるなら、私も相談に乗ってあげたいしそうするべきだ。

ごめんね、圭吾さん。

私は近々花怜さんとの事を聞いてみようと思いながら、圭吾さんのグラスに手を伸ばした。
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