記憶『短編』
いつのように、手を合わせる男に、後ろから声をかけてくる者がいた。


「毎日…。拝まれているんですね」

男の隣に、腰を屈めて、手を合わせる女の横顔を、少し見た後、

男は微笑んだ。

それから、ゆっくりと立ち上がり、遠くを見ながら、

「それも…もう今日で、終わりです。一応、連続犯人は捕まりましたし。もうそろそろ…僕も、この場所から去ろうかと」


女も拝み終わった後、立ち上がり、

「それがいいですよ。もう五年間も、供養したんですから。多分彼女も、新しい道を歩んでほしいと、思ってますよ……!!」

そこまで言って、女は顔を赤らめた。

「す、すいません。初対面なのに、出過ぎたことを…」


「いいんですよ」

男は微笑みかけた。


「あ、あのお…」

女は、さらに顔を赤らめた。

「あたし…この坂を、仕事でよく通るんですけど。毎日、拝んでいるあなたを見かけて…」

「ありがとう」

男は、頭を下げた。


「え!ああ…す、すいません」

女は慌てふためく。



その時、



突然、雨が降りだした。


男は、心の中で冷たく笑うと、軽いパニック状態になっている女に、言った。

「通り雨です。どこかで、雨宿りしましょう」



「あっ!はい!」

ずっと顔を赤らめながら、頷く女を促して、男は歩き出す。


新しいゲームの始まりである。



End。

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