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夜中に電話が鳴って目が覚めた。

担当の患者に何かあったのかと飛び起きたが
電話の相手は酔ったタクミだった。

「どうした?何時だと思ってる?」

「レオ…オレはもうキョウが居ない世界で生きてくつもりはない。」

血の気が引いていった。

呂律の回らない口調で
弱音を吐くタクミがこのまま居なくなってしまう気がした。

オレは上着だけ羽織ると車を走らせ
タクミの部屋へいった。

思った通りタクミはその場に倒れていた。

脈はあったが意識はなかった。

ワインの瓶と抗うつ剤と睡眠薬が床に散らばっていた。

救急車を呼んでタクミを救急センターに運んだ。

タクミは大事には至らなかったが
心は閉ざしたままだ。

「タクミ…大丈夫か?

とにかくゆっくり休め。」

最近タクミがこの先、生きていて幸せなのだろうかと感じる事がある。

だからといってその命を粗末にする事がどんなに良くないことかもわかってる。

キョウは生きたくても生きられなかったのだ。

「タクミ…キョウのためにもちゃんと生きないとダメだろ?」

「わかってるよ。

別に死ぬつもりじゃなかった。

眠れなくて酒と薬の量を間違えただけだ。」

タクミはそう言っていたがオレは不安だった。

タクミは生きる気力をなくしているようにしか見えなかった。

それでも次の日には退院して
タクミは笑顔で挨拶して帰っていった。

「オレ、ちゃんと生きるよ。

仕事もちゃんとする。

だから心配するな。」

その笑顔がやけに痛々しかったが
オレはタクミのその言葉を信じることにした。


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