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「中入って。」

アタシは恐る恐る部屋の中に入った。

「ここにはどうして?」

「あ、マネージャーさんに聞いて。」

「何?契約の件?」

「うん。どうして嫌なの?」

「お前がレオと結婚するから。」

「アタシ…どうすればいい?」

「レオと別れて。」

それきり2人とも口を噤んだ。

どのくらい時間が経ったんだろう?

タクミは黙って契約書をアタシの手からまるで奪うみたいに引ったくって突然サインをした。

「持って帰れ。

それから…結婚式には行かないから。」

タクミは契約書を床に放って部屋を出てった。

アタシは契約書を拾うと
タクミを追い掛けた。

エレベーターに乗ろうとするタクミを捕まえて

「ごめん。」

と言った。

タクミは謝るアタシにキスをした。

涙が溢れて止まらなくなって
タクミに抱きしめられた。

「何で俺じゃダメなんだよ?」

「タクミはハナエの彼氏だから。」

「それが理由?

お前もレオの婚約者だろ?」

アタシたちはどこで間違ったんだろう?

きっとハナエを紹介しなければ
アタシの隣にはタクミがいたはずだった。

もう引き返せない。

招待状も出したし…アタシはレオを選んでしまった。

「タクミは遠くに行き過ぎて…もうアタシの手には届かない。」

「お前が遠くに行ったんだ。

いつもそばに居たのに…

ずっと一緒だと思ってたのに…

オレに女なんか紹介して…

それでも何度も逢いに行ったし…

何度も気持ち伝えて…」

タクミがアタシをきつく抱きしめてそんなこと言ったって…

それでもアタシはもう引き返せない。

引き返せなかった。












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