身代わりの姫





いえ、きっと、私達はこれから違う道を、交わることのない道を歩む。


影武者が任務を終えたとき、どこでどうなるのか?



秘密を知りすぎて殺されるのか

全く知らない土地で新しい人生を始めるのか


一生、影武者なのか………


影武者のその後の人生なんて、誰も知らない。



暑かった日差しが夕陽に変わる頃、服を着て、馬小屋に繋いだ馬の紐を外した。


将来の約束もできないままなら……
それでいて、どこかで嫉妬に狂うなら………


吐き気が襲うほど、全身がドクリと音を立てた。


これで最後にしようと、決めた。

シリルなら、これからまだまだ色々な出会いがあるだろう。


私が縛り付けることは出来ない。


私自身が、個人的な感情で惑わされてはいけない。

もしかしたら、それが、あなたを、国を、揺るがすことになるかもしれないから。


涙は、止まっていた。


馬を撫でているシリルを見た。

シリルは、優しい表情をしている。


その姿を見て、ドキリとした私の目が熱くなる。

今は泣いてはいけない。


そう言い聞かせて、全身に入っていた力を抜くと不思議と笑顔になった。

今、言わなければ………



「シリル、今までありがとう」


シリルがハッとした表情で私を見た。


「あなたはきっと、いえ、絶対に幸せになってほしいの。

元気でいてね」





「アリア………それは……」


固まったシリルの頬にキスをして、馬に跳び乗って養成所に一人で戻った。


涙は、出なかった。

胸が、苦しいなか、これから始まる生活のことが頭の中に広がる。



私は、王女の影となる。

影はすなわち、本体である、王女の物なのだ。



私は、王女と共にあり、そしてまた、王女のモノであるのだ。






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