咲くはずだった花
お互いさま

第十四話 お互いさま

「…結花


ごめんなさい」

話し終わると…

奈千は唐突に、結花に頭を下げた

「…っ、?!」

結花も真緒も訳が分からず…

奈千は下げた頭を上げ、結花を真っ直ぐに見据えた

「…結花がそんなにも真緒ちゃんを想ってたなんて…あたし、知らなかったの」

涙ながらに言葉を紡ぐ奈千

「ずっと…ずっと、側に、居たのに…」

「…っ…」

「気づいてあげられなくて…」

「やめ…」

「…気づいてあげられなくて、ごめん…結花…っ……!」

「やめてってば!!!!」

嗚咽を漏らしながら頭を下げる奈千

耐えきれなくなった結花が立ち上がり、叫んだ

「なんっ…何なの?!
そうやってあたしを更に落とす気…?!」

「そん…なんじゃ、ないよ…」

「じゃあなに?!」

「…今更って…思うかも、しれない

でも…

あたし…結花とまた…仲良く、したいよ…!」

「…っ、?!」

「奈千…何言って…?!」

奈千の言葉に、結花と真緒は言葉を失った

「…っ…、……!!」

あれほどの事があったのに

あれだけ、結花に散々貶められたのに…

「…!!」

奈千は…

結花を、恨んでなどいなかった

「…もちろん、結花のした事を…許した訳じゃ、ない…」

パジャマの袖で涙をぐいっと拭い、結花を見つめる奈千

「けど…」

それ以上に

「…大好きな結花の気持ちに気づいてあげられなかったあたしも…悪かったの…!」

「奈千…?」

結花の身体は小刻みに震え…

力無く、その場に座り込んだ

「なん…なん、で……」

悪いのは…

奈千を陥れたのは、あたしなのに……

「…奈千……」

真緒はどうしていいか分からず、奈千の方へと目をやる

「……」

ギィ、と車椅子が軋むと…

「…!」

奈千がゆっくりと手すりを伝って車椅子から降り、座り込む結花と目線を合わせる

「…結花、」

「…っ、…」

「…仲直り、しよう?」

「…っ、!!」

そう言って、奈千は結花をゆっくりと抱きしめた

「…真緒ちゃん、魅力的だもん。
そりゃあ結花も好きになるよね」

「…」

「かっこよくて、優しくて…
結花が王子様みたいって言ってたの…今なら、分かる気がする」

「……」

「小さい時からいつもあたしのそばに居てくれたから…

それが当たり前なんだって、何も疑わなかった」

「だからって…!」

結花が何か言いかけたが…

奈千は優しく笑い、言葉を続ける

「…結花の気持ちが聞けて、本音が聞けて。

あたし、嬉しかった」

「…!」

「…あたしが頼りないからかもしれないけど…結花、あんまり相談したり悩みを話したりしてくれないじゃない?

だからこうやって…ちゃんと本音をぶつけてくれた事、本当はすごく嬉しかった」

「…っ……」

「…ありがとう、結花」

「…っく…ひっ…く…」

堪えきれない大粒の涙が結花から溢れる

「…どんなに時間がかかっても、待ってる。

あたしは…

結花の友達、だから」




結局、

結花は適切な処分を下されるらしく、しばらくは会えないことになった

「…奈千、大丈夫か?」

帰り道

真緒に車椅子を押されながら病院へと向かっていた

「…うん、大丈夫」

「…」

「……」

特に何を話す訳でもなく…

二人はそのまま、病院へと戻ってきた


「…あ、真緒に奈千ちゃん!!」

珍しく楓が息を切らし、病院のロビーへと走ってきた

「…その様子じゃ、悪くは無い結果になったのかな?」

「…はい!」

奈千の様子を見て、少し笑ったような表情を浮かべる楓

「あれ、楓?今日は日勤で帰ったはずじゃ…ぐっ!」

とことことバインダーを手にやって来た英治は楓の拳がみぞおちにヒットしてうずくまる

「…余計なことは言わなくていいから。

って、奈千ちゃんもしかして…歩いた?」

「っえ、何で分かっ……あ、」

楓が奈千の足元を見ると、僅かに靴下が汚れていた

「…よく分かったね。俺、絶対気づかない」

「言ってる場合か。…奈千ちゃん、どこも痛くない?」

楓が奈千に駆け寄って跪き、奈千の足元に触れる

「大丈夫です。…真緒ちゃんも居ましたし」

「…なら、良かった」

そう言って、楓は安堵の息をついた

「…で?
楓、お前は二人に言うことがあるんだろ?」

何とか立ち上がった英治が楓の方を睨む

「…正確には俺からっていうより…まあ、取り敢えずついてきてくれる?二人とも」

楓が踵を返し、真緒と奈千を誘導する

「…あれ、楓くん、“俺”口調に戻ってる……」

「それだけ安心しちゃって、素が出ちゃったって事じゃない?」

遠くから一部始終を見ていた瑠衣と千尋は、エレベーターの近くにある柱の影からクスクスと笑う

「…おい、そこの覗き魔二人。

いつまで見てる気?
感じ悪いんだけど??」

「うわっ、楓くん?!」

「いいいいつの間に?!?!!」

「…もういい」

いつの間にかエレベーターのボタンを押して二人の背後に来ていた楓

「あ、千尋さん!!」

「真緒くん!

…何か、前に見た時よりもずっといい顔してるね」

「…そう、ですか?」

真緒が自分の頬に手を当て、首を傾げる

「…行くぞ」

開いたエレベーターに楓が乗り込むと、真緒と奈千も乗り込んだ

「じゃ、後は頼むな。楓」

「分かってるよ」

エレベーターの扉の向こうで英治と千尋、瑠衣が三人を見送る

「…真緒くん!」

扉が閉まり始めた頃、千尋が声をかける

「…!」

僅かに口を動かした千尋

それを確かに受け取った真緒と奈千は笑顔になる



“が ん ば れ”



三人は奈千の病室へと向かった
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