常務の愛娘の「田中さん」を探せ!
Chapter1

* FA課の田中さん *


大地は兜町にある本店営業部に戻った。

本店は、丸の内の本社のスタイリッシュではあるがその反面、無機質にも見える高層ビルとは対照的だった。

会社が設立された昭和初期に建てられ、大谷石で覆われた瀟洒なデザインの外壁は、戦時中の空襲にも耐えた。文化財として保護の対象になってもおかしくない建物だが、使い勝手に難があった。
断熱材が入っていないので、エアコンの冷気にしろ暖気にしろ、建物の外へダダ漏れなのである。
したがって、夏は異様に暑く、冬は異様に寒かった。

しかし、さすがに店舗にあたる一階だけはお客様の手前、そんなことは許されないので、リノベーションして、金融機関の店舗特有の「夏は羽織るものがほしいほどの寒さ、冬は半袖でも過ごせるくらいの暑さ」の室内を保持している。

だから、営業部のある二階は、昔ながらの室温を維持していたので、あまり腰を落ち着けられるエリアではなかった。

……ま、つべこべ言わずにとっとと外回りに行け!ということなのだろうが。

席に着いた大地は、早速、課内でも腹心の部下である主任の小田(おだ)を呼んだ。

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