常務の愛娘の「田中さん」を探せ!

……この人はどうしてわたしが、常務の娘であることを知っているのだろう?

その事実を知っているのは、本社の人事部、この本店では人事課の課長と朝比奈 蓉子だけのはずだった。

「田中さん」自身は特別扱いがイヤだということで伏せてもらっているのだが、それよりも、とにかく父親が公表するのをイヤがっているのだ。
そんなにイヤなら、自分が勤務する会社になんか就職させなければいいのに、自分の目の届くところには置いておきたいらしい。

特に、丸の内の東京本社からこの兜町の本店に転勤の内示が出たときの、父のイヤがりようはものすごかった。「田中さん」に、嫌だったら会社を辞めてもいい、とまで言ったのだ。
自分が転勤するわけでもないのに、異様なくらいの拒否反応だった。

そして、本店の人事課へ自ら電話して、絶対にこの秘密を保持するように釘を刺しまくっていた。

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