隣人はヒモである【完】
隣の他人




大学生になった。一人暮らしを始めた。築30年の、綺麗でもボロでもないアパート。


間取りは1ルームで、たった六畳、家賃3万5千円。


壁が薄いから、お隣の部屋の音はダダ漏れ。テレビの音、トイレの流水音、掃除機の音、笑い声、そして、男女の営みを容易に想像させる生々しい喘ぎ声。とか、その他もろもろ。




「……あー、……どうも」


「……どうも」




欠伸してるとこ見られた。


午前8時半、1講の授業に合わせて家を出て、大きい欠伸をかましたところ、偶然にも悲運にも隣の部屋から出てきた住人と目がばっちし合ってしまった。


ぼさぼさの黒髪とだらしのないグレーのスウェット姿がよく似合う冴えない男。目にまでかかる長い黒髪が不潔。


推定年齢30歳前後。ちなみに今日は月曜日。普通の会社員ならそろそろ家を出ている時間じゃないのか。


なんて、余計な詮索ですね。


軽く会釈して彼の前を通り過ぎようとしたところ、不意に風が吹いて一瞬前髪に隙間ができて、虚ろな瞳と目が合った。


不思議と色気がある感じの目。



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