こけしの恋歌~コイウタ~
成瀬さんは優しい眼差しで、その言葉は私の身体全体に染み渡った。

人事として派遣社員を心配して言った言葉だと頭ではわかってる。

一瞬にして私の心はギュッと鷲掴みされた感じで、心臓がトクトクと波打ち、頬は熱い。

成瀬さんに気づかれまいと平静を装って、再びキーボードを叩き始めた。

「すみません。あと半分くらいなので、終わらせます」

心臓のうるさい音を消し去るように、カタカタとキーボードを叩く。

とにかく集中だ!

目の前にいる成瀬さんにじーっと見られていたなんて、その時は全く気づかなかった。

思いの外、早く終わって午後8時過ぎに完成した。

「終わった~」

データを保存して、パソコンの電源を落とした。
そこで私の集中力は切れた。

ホッとしたやら、悔しいやら。
ごちゃ混ぜの感情に、涙が溢れ出てくる。

歪んだ視界の中に、成瀬さんがいた。
どうやら、ずっと私の向かいにいたらしい。

は、恥ずかしい!

さっき会ったばかりの、しかも社内の人。
こんなカッコいい人に、私はなんという醜態をさらしているんだろう。

この場から消えたい!

そう思ったら行動は早かった。
私ってこんなに機敏に動けたっけ?って感心するくらい。

さっとバッグを持って、一目散にフロアを出た。

「お先に失礼します!」

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