こけしの恋歌~コイウタ~
「高畑さん、いつもすみません。取材には出来るだけ細かく回答しておきます」

取材依頼のメールには、たくさんの質問項目があった。
ひとつ、またひとつ、正直に回答していく。

最後の質問は、『現在恋愛をしているか?』だった。
答えはもちろんイエスと回答した。
片想いで、おそらく想いが通じる可能性は低いこと、それでも、好きな人には幸せでいてほしいと願っていることを付け足した。

その想いを込めて、私は恋のバラードを歌っている。

「円香ちゃん、顔出しする気ない?」

社長の言葉に私は手を止めて顔を上げた。

「社長、それは…すみません。自分に自信がありません」

「円香ちゃんはたくさんの人を魅了する歌声の持ち主だよ。すごい才能だよ。海外からの反響もすごいんだよ」

「私はある人に恋をしているだけです。ただ、その人が幸せでいてくれたらと願って歌っているだけです」

社長は私を褒めてくれるけど、やっぱりこけしだから。
自信なんてない。

社長に念をおして、おもてに出る気はないことを強く伝えた。

窓の外の景色をぼーっと眺めながら、成瀬課長のことを想った。
成瀬課長に私の歌声が届く日は来るのだろうか。

私はひとり首を左右に振った。
そんな日は来ないだろう、と。




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