こけしの恋歌~コイウタ~
成瀬課長が結婚…。

しばらく考えて、それもそうかと納得する。
これだけハイスペックな人を周りは放ってはおかないだろう。
世話好きの常務が秘書課あたりの美人で仕事が出来る人を紹介するってことも想像がつく。

しかもちょうど今、常務と海外出張している。
海外転勤の噂が本当ならば、その前に結婚ってことにも納得出来る。

私はその場にしゃがみこんだ。
ふたりはすぐに出ていったようだったけど、私はしばらくその場から動けずにいた。

両頬が濡れている。
涙が拭っても拭っても溢れ出てくる。

おかしい。
どうしてこんなに泣いているんだろう。

まだ、そうと決まったワケじゃない。
あくまでも噂話にすぎない。

それでも近い将来、起こり得る現実味のある話。

だとしたら、資料室での出来事は…。

忘れよう…。
なにもなかった。
夢を見ただけ。

とにかく涙を引っ込めよう。
早く仕事に戻らないと。

一度ギュッと目を瞑る。
顔を洗ってハンカチで押さえた。
目は赤いけど、ずっとここにいるワケにはいかない。

両頬を軽く叩いて気合いを入れて、総務部に戻った。





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