夢色メイプルシュガー


「──So I want to be a lawyer.」


最後の一文を読み終え一礼すると、すぐに拍手が鳴り響いた。


「やっぱ涼岡さんはすげーな」


ふぅ、と席に座るとともに、どこからかそんな声が上がった。


「あー、弁護してもらいてぇなー」

「わかる、俺もー」


……弁護してもらいたい?

黒木くんも小池くんも変なこと言うなぁ。


不思議に思っていると、教卓の方から「こほん」と一つ咳払いが聞こえた。


「こらそこ。間違えてもニュースに載るようなことは絶対にするなよ」

「「はーい」」


くすくすくす──。

田辺(たなべ)先生の冷静なツッコミが、教室内に笑いを呼んだ。



「弁護士か。いい夢だなぁ」


すぐに先生の顔がこっちを向いた。

口角が緩やかに上がり、穏やかな表情をしている。


「文法も発音もバッチリだし……さすが涼岡だ」

「いえ、そんな」

「座っていいぞ」


よし。

私は席につきながら、心の中で小さく拳を握った。


「じゃあ次は……」


クイッと銀縁のメガネを上げた先生。

人差し指で出席名簿をなぞりだし、そして。



「宗谷(そうや)」


しかし、反応がない。


「宗谷ー?」


またしても反応がない。


「宗谷渚(そうや なぎさ)くん……?」


それでも、反応はなかった。

いつまで経っても変わらないその状況に、ついに先生は眉を寄せ。


「いいかげん起きろ宗谷渚ぁーーーーっ!!」


大いに怒号を撒き散らした。

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