再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
「それ、ポイントは何だと思う?」
航くんは自分のイスを私に近づけて座り、パソコンの画面に表示されている写真を見ながら話しかけてくる。
「ポイント、ですか?」
「あぁ。主役は何かって考えてみて。案件にもよるけど、この場合は照明やオブジェやその空間じゃない」
「……あ。本、ですか?」
「そう。いかにして全ての本を主役にできるかが、俺たちの仕事。本屋にある本は売れる売れないに関係なく、1冊残らず主役であるべきだから。それはたとえ表に出ていない本も含めて。その主役を主役のまま、そこに来る人たちをどうもてなすことができるのか。そして、客にも主役の気持ちを感じさせるためにはどうすればいいか。その辺りをポイントに定めて作り上げて、形にしたのがその案件。建築士ともクライアントともたくさんぶつかりあったからこそ、いいものができた例だな」
航くんの仕事への熱意や想いが伝わってくる。
その姿は私の知らない航くんで、10年という時の大きさを感じた。
「梶原さんもこれからそういう仕事をしていくんだってこと、いつも念頭に置いておいて」
「アシスタントでもですか?」
「当たり前だろ? 現場には出ることなく依頼された作業だけをするものだと思ってるかもしれないけど、アシスタントだって大切な役割だよ。資料を取り寄せるのも見積もりを出すのも発注するのも、そこが留まってしまえば何も進まないんだから。俺たちはチームでひとつのものを作り上げるんだ。そこには、軽いも重いもない」
「……はい」
今まで、主役は空間を作る建築士や照明プランナーであり、アシスタントは光の当たることのない裏方的存在でしかないと思っていた。
もちろん裏方は必要だと思うし、たとえ裏方であっても企画の一部に携わることができることに憧れを持っていた。
けれど、航くんが言っていることはそういう意味ではない。
主役はこの案件なら本で、ものによってはその空間。
そしてその空間を訪れる人たち。
つまり、空間を作る建築士や照明プランナーは主役ではなく脇役やスタッフだということだ。
同等とまでは言えないとしても、アシスタントも照明プランナーと共に同じ立ち位置として存在する。
照明プランナーを支えるだけの存在ではなく一緒に作り上げていく存在でもあると思えば、モチベーションもさらに上がる気がした。
正直、航くんのことを見直した。
いつも自分中心の考えをしているわけじゃないんだ。